なぜBlazorが注目されているのか?SPAとの違いを解説|ASP.NET×Blazor入門 1.4
1.4 なぜBlazorが注目されているのか(SPAとの違い)
2020年代のWebアプリケーション開発において、ReactやVueを用いたSPA(Single Page Application)は、多くの現場で“定番”の選択肢となりました。ページの再読み込みを伴わない滑らかな操作感や、サーバーとのやりとりを最小限に抑える効率的な構成は、ユーザー体験を向上させ、APIベースの設計手法とも高い親和性を示しています。
しかし、その一方で、JavaScriptやTypeScriptをベースとしたSPAの開発には、かなりの学習コストと設計上の複雑さが伴います。バックエンドをC#で開発しているエンジニアがフロントエンドにも手を広げようとすると、言語の違いに加え、ビルドツールや状態管理の知識、セキュリティ設計の分離といった複数の要素を一気に学ばなければならず、決して“手軽”とは言えません。
SPA開発の壁:構造の複雑さと保守性の課題
JavaScriptベースのSPA構成では、UIテンプレート、状態管理、非同期処理、ルーティング、ビジネスロジックといった要素が、それぞれ別のファイルやレイヤーに分かれて構成されるのが一般的です。その結果、たとえばひとつのボタンの処理を追うだけでも複数のファイルをまたいで確認する必要があり、慣れていない開発者にとっては見通しが悪く、保守性が著しく下がることも少なくありません。
もちろん、柔軟で拡張性の高いSPA構成は、熟練したJavaScriptチームにとっては強力な武器となりますが、小規模な内製チームや.NETベースの開発者にとっては、導入や継続運用のコストが想定以上に大きくなるケースも多いのが現実です。
Blazorの登場:.NETだけでSPAを作るという選択肢
Blazorは、こうした開発現場の課題に対して、非常に現実的な解決策を提示しました。それは、UIの描画からイベント処理、状態管理、フォームバリデーションに至るまで、これまでJavaScriptで実装されていた処理の多くを、C#とRazor構文だけで実現できるようにしたという点にあります。
すでに.NETで開発経験があるエンジニアであれば、新たな言語やビルド環境を覚えることなく、Razorの構文、依存性注入(DI)、非同期処理(async/await)といった.NET標準の仕組みだけで、フロントエンドの開発に踏み出すことができます。これは、技術的な敷居を下げるだけでなく、フロントエンドとバックエンドを統一的に捉えるという意味で、アーキテクチャのシンプル化にもつながります。
「すべてC#で完結する」ことの現場的な意味
従来の開発では、C#でロジックを書き、JavaScriptでUIを実装し、両者をAPIでつなぐという“多層的”な構成が主流でした。こうした分業体制は、専門性の高いチームでは機能しますが、スモールチームや短期間での構築を求められる場面では、かえって開発のスピードや柔軟性を損なうことがあります。
その点、BlazorはUIもロジックもC#で統一できるため、学習範囲が狭まり、チーム内のスキルセットも整理しやすくなります。技術スタックが絞られることで、開発者が「どこまで自分の責任で手を入れられるか」が明確になり、プロジェクト全体の管理や内製開発の効率化に大きく貢献します。
Blazorが注目される3つの理由
- ① JavaScript不要: フロントエンドをC#で記述できるため、学習コストを抑えられる
- ② 技術の一貫性: バックエンドと同じ知識でUI構築が可能になり、全体像を把握しやすい
- ③ 業務アプリとの高い親和性: 少人数で完結する社内開発や内製化に適している
Blazorは、複雑になりがちなSPA開発の構造を.NETの技術スタックでシンプルに再構築するアプローチとして、注目を集めています。とくに業務系アプリや社内ツールの分野では、すでに多くの導入実績があり、今後さらに採用が広がっていくことが期待されています。
次のセクション 「開発環境の構築と基本プロジェクトの作成」では、Blazorの導入を始めるにあたり必要な環境構築と、最初のプロジェクトの立ち上げ方法について解説していきます。
下田 昌平
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