Blazorとは?サーバー vs WASM 比較|ASP.NET×Blazor入門 1.2

1.2 Blazorとは?サーバー vs WASM 比較

「JavaScriptを使わずにWebアプリを開発できる」──この大胆なコンセプトで登場したBlazorは、C#や.NETを得意とする開発者たちにとって新たな選択肢となりました。
しかし調べ始めてすぐに、多くの人が立ち止まるポイントがあります。

「Blazor ServerとBlazor WebAssembly、どう違うの?どちらを選べばいいの?」

名前は似ていますが、この2つは「アプリケーションがどこで実行されるか」という根本的なアーキテクチャの違いがあります。開発体験・運用コスト・ユーザー体験に至るまで、選択によって多くの側面が変わってくるため、まずは両者の特徴を整理して理解することが重要です。

Blazor Server ― UIをサーバーがリアルタイム制御

Blazor Serverは、すべてのUIロジックがサーバー側で実行され、SignalRというWebSocketベースの通信技術によって、UIイベント(クリック、入力など)をブラウザとリアルタイムにやり取りします。
ブラウザはHTMLの「差分」を受け取り描画するだけで、アプリケーションの本体はすべてサーバー側にあります。

  • ✔ ページ遷移なしで即時レスポンス
  • ✔ 初回ロードが非常に軽量(DLL不要)
  • ✔ C#コードの保護(クライアントに送られない)
  • ⚠️ ネットワークが切れると操作不能
  • ⚠️ ユーザーが増えるとサーバーリソースを圧迫

社内向けアプリや業務ダッシュボードなど、信頼性の高いネットワーク環境下で使われるシステムでは、Blazor Serverは開発スピードと保守性を両立できる非常に強力な選択肢です。

Blazor WebAssembly ― ブラウザで完結する自律型アプリ

Blazor WebAssembly(通称 Blazor WASM)は、アプリケーションを構成するすべてのDLL(.NETランタイム、UIコンポーネントなど)をブラウザにダウンロードし、ユーザーのデバイス上で直接実行します。
このモデルは、JavaScriptのSPA(Single Page Application)に近い体験をC#で実現するものです。

  • ✔ クライアントで完結するためオフライン対応が可能(PWA)
  • ✔ サーバーの負荷が小さい(APIサーバーだけで済む)
  • ✔ CDNを使った高速配信が可能
  • ⚠️ 初回ロードが重くなりやすい(DLL転送)
  • ⚠️ WebAssemblyの制約(マルチスレッド、ファイルI/O制限)

Web公開用のアプリ、Kiosk端末、ユーザー数が多いサービスなどでは、WASMはスケーラブルかつ柔軟な選択肢になります。

ServerとWASM、どちらかしか使えない?

実はこの問いには、嬉しい答えがあります。Blazorは ServerとWASMをプロジェクトごとに切り替えられるだけでなく、ハイブリッド運用も可能です。

例えば、管理画面はBlazor Serverで構築し、一般ユーザー向けの公開アプリはBlazor WASMで提供する、といった使い分け戦略が現実的に採用されています。さらに .NET 8 以降では「Blazor United」構想が進んでおり、1つのプロジェクトの中でサーバーレンダリングとWASMを融合する新しいパターンも登場しています。

いずれのモデルを選んでも、UIコンポーネントの再利用、DI(依存性注入)、ルーティング、サービス層など多くの部分は共通化できます。そのため、後から構成を切り替えたり、両モデルを並存させることも可能です。

まとめ:アプリの性質に応じたアーキテクチャ選定を

  • Blazor Server:通信安定性があり、初期開発や社内システムに適する
  • Blazor WASM:配布やスケーラビリティを重視し、ユーザー側の処理を分散したいときに最適
  • 将来は「Blazor United」によって両者の融合も可能に(.NET 8+)

次のセクション 「Razor Pages, MVC, Blazorの使い分け」 では、ASP.NET Core全体の中でBlazorがどう位置づけられるのか、Razor PagesやMVCと比較しながら設計の観点を整理していきます。

2025-04-04

下田 昌平

開発に関するインプットをアウトプットしています。