Blazor WASMの制限とパフォーマンス最適化|ASP.NET×Blazor入門 9.3

9.3 WASMの制限とパフォーマンス考察

Blazor WebAssembly(WASM)は、クライアントサイドでC#を実行できる革新的な技術ですが、その利便性の裏にはいくつかの明確な制限とパフォーマンス上の課題があります。このセクションでは、それらのポイントを整理し、現場での設計判断や対策を提示します。

主な制限

  • ファイルサイズ: 初回ロードで数MBの.NETランタイムやアセンブリをダウンロードする必要があり、初期表示が遅延する要因になります。
  • マルチスレッド非対応(2024年時点): JavaScriptと異なり、WASM上のC#コードはまだマルチスレッドによる並列処理が制限されています。
  • 制限されたAPIアクセス: .NETが通常提供するSystem.IOやSocket通信などの一部機能がWASMでは利用できません。
  • ブラウザ環境に依存: セキュリティ制限やブラウザごとのWASM実行最適化状況により、動作が異なる場合があります。

パフォーマンス課題

以下は実際の開発現場でよく問題となるパフォーマンスの観点です。

  • 初期ロード時間: WASMアプリのダウンロード時間が5〜10秒を超えるケースもあり、ユーザー体験に影響します。
  • 大量DOM更新時の遅延: コンポーネントが多く、頻繁な再描画が発生する場合、JSインターオペレートのオーバーヘッドが蓄積します。
  • HTTP通信の集中: クライアントからすべてのデータ取得を行うため、APIサーバーへのアクセス負荷が高くなる傾向があります。

対策と設計の工夫

Blazor WASMを実用的に使うには、次のような工夫が求められます:

  • トリミングとAOT(Ahead-of-Time)コンパイル: .NET 7以降、AOTを利用することでWASMの実行速度を大幅に改善できます。
  • Lazy Load(遅延ロード): 必要な機能だけを遅延読み込みすることで、初期表示を最小限に抑えます。
  • 静的アセット最適化: JavaScriptやCSSを圧縮・結合して転送量を減らすのも重要です。
  • プリレンダリングの導入: 最初の表示だけBlazor Serverで描画し、その後WASMに切り替えるハイブリッド構成も可能です。

まとめ:選択はプロジェクトの性質次第

WASMはクライアント主導のアーキテクチャを提供しますが、描画速度・ロード容量・APIアクセスの制限を十分に理解したうえで選択する必要があります。
企業向けアプリケーションやSEOが重要なサービスではBlazor Server、オフライン対応・クライアント負荷分散を求める場合はBlazor WASMが適しています。

次の章では、実際にUIを豊かにするためのコンポーネントライブラリの導入について解説していきます。

2025-05-11

下田 昌平

開発に関するインプットをアウトプットしています。