リテールメディア、今最も速く成長している広告領域

2023年には 約12.8兆円(128B USD) に達し、
検索やSNS広告よりも高い成長率を記録しました。
主要な調査では、2026年に 16〜18兆円規模 に拡大するという予測も出ています。

これは一過性のトレンドではありません。
商流と広告の結びつきそのものが再構築されている、非常に大きな変化です。

そして、この変化は世界のどこか一部で起きているわけではなく、
アメリカ・ヨーロッパ・アジアと、ほぼ同時多発的に進んでいます。


いま起きていることは「店にスクリーンが増えている」以上の話だと考えています。

小売企業が持つデータの価値が最大化され、
広告が「デジタルの指標」ではなく
現実の購買行動と直接つながるメディア へと進化しつつあります。

SKU単位、店舗単位、時間単位で効果を測定できる広告。
こうした仕組みが整いつつある今、
リテールメディアは後戻りしない構造的な変化に入っているように見えます。


なぜ世界中で同時にリテールメディアが伸びているのか

理由はとてもシンプルで、しかし根本的です。

1. 店頭は、最も強い「購買意図」が生まれる場所

オンラインは興味を測り、
店舗は決断が行われる場所です。
この差は大きく、広告の価値を根底から変えます。

2. 小売は、プライバシー時代でも唯一“生き残るデータ”を持っている

CookieもIDFAも弱体化する中で、
「実際に何が買われたか」というデータだけは揺らぎません。

これは広告にとって決定的な優位性です。

3. ブランドの予算が“成果の見える領域”に移動している

曖昧なアトリビューションではなく、
「この施策で売上がどれだけ増えたか」 が問われています。
これは店頭でこそ明確に測定できる指標です。

こうした要因が重なり、
リテールメディアは世界的規模で急拡大しています。


店舗が測れる環境になりつつある

以前の店舗は「データが取れない場所」でした。
しかし今では、わずか数秒単位で大量のシグナルが生まれています。

  • 販売データ(POS)

  • 在庫状況

  • 導線や滞在時間

  • 天候と時間帯の変化

  • 店舗ごとの需要差

  • 価格・プロモーション反応

こうしたデータが揃い始めたことで、
店頭広告は 固定的な表示 ではなく
状況に応じて反応する“学習型メディア” へ変化しつつあると考えています。

ただし、これは簡単に実現できるものではありません。
相当高度な技術基盤が求められます。


なぜ私たちは「店舗専用のアドテクノロジー」を開発しているのか

多くのアドテクノロジーは、
ブラウザやアプリという整った環境を前提に作られています。

ところが、実際の店舗はまったく違います。

  • ネットワークが不安定

  • デバイスが統一されていない

  • 在庫が常に動く

  • 店舗ごとに状況が異なる

  • 同じ店舗でも時間帯で変化する

こうした環境では、
従来型の広告基盤はうまく動きません。

だからこそ私たちは、
「店頭という現実に耐えられる設計」 を出発点に
アドサーバー、DSP、そして計測基盤を作っています。


このシリーズでお伝えしたいこと

Part I — なぜリテールメディアは世界的に成長しているのか

最後の意思決定ポイントとしての店頭、
データ資産としての購買情報、
そしてそれを結びつける構造変化について整理します。

Part II — なぜPOSデータがすべてを変えるのか

「どのデータが本当に売上を動かすのか」。
POSという“真実のデータ”が持つ力を深掘りします。

Part III — なぜテクノロジーが決定的な差を生むのか

店頭環境がなぜ難しいのか。
その中で安定稼働する基盤とは何か。
技術視点からお話しします。


これはプロダクトの宣伝ではありません。

これは、これからの10年に向けた考え方を共有するものです。

リテールメディアがどこへ向かうのか。
何が価値を生み、どのような仕組みが市場を形作るのか。

その全体像をつかむための最初の一歩として、
Part I から読んでいただければ幸いです。

2025-12-12

下田 昌平

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